前田昌弘 津波被災者の再定住地への移住と生活再建におけるコミュニティの役割 -スリランカ南部沿岸集落の多様な関係の持続性-
阪神・淡路大震災(1995年)の被災市街地における住宅再建と災害復興公営住宅団地を比較した研究(北後・樋口・室崎2006)においても指摘されているように、住宅復興は通常、被災者の生活再建のし易さから、被災地での住宅再建が望ましいと考えられている。 一方、新潟県中越地震(2006年)では、多くの集落で被災地外への集団移転が実施された。集団移転が本当に妥当であったか議論の余地はあるが、被災地には被害再発の恐れがある集落も多く、集団移転は実施された。 このように、社会状況や地域性によっては被災地外への住宅移転が避けられない場合がある。その場合、移転先の新しい環境に適応する負担が生じ、被災者の生活再建がさらに困難になる恐れがある。こういった住宅移転の問題について、居住地計画的な対策が必要だと考えられるが、実際的な対策に資するような研究は少ない。 住宅移転の問題はわが国に限らず、インド洋津波(2004年)、ハリケーン・カトリーナ(2005年)、四川大地震(2008年)、ハイチ地震(2010年)などにおいても発生しており、災害復興における普遍的な問題であると考えられる。 また、住宅移転の問題は、個人の生活がどうあるべきかという問題に関わるだけではない。現代社会における生活の質は、家族の関係、友人関係、仕事上の関係など様々な関係によって保たれている。コミュニティをこれら様々な関係の複合体と定義するならば、住宅移転の問題は、平常時のコミュニティがどうあるべきか、既存のコミュニティをどのように維持・継承すべきか、というコミュニティのあり方の問題にも深く関わっている。 本稿が対象とするインド洋津波後のスリランカも、同種の問題を抱える地域である。本稿では、再定住地へと移住した津波被災者の生活再建においてコミュニティが果たした役割の分析を通じて、住宅復興におけるコミュニティの維持・継承のあり方について考察したい。